• facebook
  • twitter
  • instagrum

​sabukarutokiyo@gmail.com

​©︎ 2017-2020 サブカル トーキョー Co. ALL Rights Reserved

Tollywood

最終更新: 2019年11月13日


「でも、ただ面白いだけでもだめなんですよ」

「サイズ感っていうのはありますね、この広さだから表現できているものがあります」

「映画館は廃れないと思いますけどね」

「“次世代を発掘してやる”なんて偉そうじゃないですか」

「若くて暇があった時代は、実在しない架空のアーティストのアルバムをブログでレビューしてましたね」


下北沢トリウッドスタッフ 山本氏より


2017年月11月8日 インタビュー ライター:Wang

一般的な映画館を想像してほしい。でかければでかいほどいいとでも言いたげな広大で薄暗がりの会場と、圧倒的なスクリーンを思い浮かべるだろう。さらにはずらりと並ぶ無機的なシートは我々に程よい緊張感を与え、非日常を演出する。その空間はSFやアクション映画などのダイナミックな映画にはもってこいだ。

しかしその逆を考えてみよう。スケールの大きい映画館を学校の体育館と例えるなら、クラスごとに分けられたー教室を考える風に。陽気な日差しが当たる教室ぐらいの映画館に、後ろ黒板ほどの小さなスクリーン。そして誰もが親しみを持つあのベニヤ椅子に座って鑑賞する映画はエモーショナルなものに限るだろう。

今回はそんな温もりのあるミニシアターを訪ねた。

ミニシアターは下北沢駅の南口を出て、商店街の端の角を曲がり、レンガ調の階段を登って進んだとこにある。身を隠すように位置しているから、ブラブラしてると偶然たどり着いたなんてことは滅多にない。



その名はトリウッド。どこか聞いたことのあるような名前だという方も多いはずだ。それもそのはず、アメリカのカリフォルニア州にあるハリウッドにちなんでトリウッドと名付けたと言う。厳密にはトリウッドと命名されるまでには思いがけないストーリーがある。

あるテレビ番組でタレントの関根勤さんが「インドの映画をボリウッド映画って言うんなら、東京ならトリウッドだね」とおっしゃったそうだ。それを見た代表の大槻貴宏さんはすぐさまテレビ局と関根勤さんの事務所に電話し許可を得て、「トリウッド」という名にしたそうだ。



入り口は映画館らしい粛然さとしれっとした寛容さを兼備しているという印象だ。 ガラス張りの扉にも惜しげも無くTollywoodの文字が。きっと大槻さんはこの名前に惚れ込んだのだろうということが伺える。

それでは店内へ。



堂々とした外見とは裏腹に、黄色い壁が実に可愛い店内だ。映画館らしくない茶目っ気は新鮮で、来る人をあっと言わせると同時になごます。



赤オレンジ色に光るライトは、バーカウンターでお酒を照らすように上演中の映画のフライヤーを味わい深そうに照らす。



どのフライヤーにも見覚えがないのも無理はない。というのもトリウッドでは全国ロードショーで上映されないような有望な若手映画監督の作品が半数を占めているからだ。

トリウッドが始まったのは1999年の12月。大槻貴宏さんがアメリカ留学を経て、東京ビジュアルアーツというエンターテイメント総合専門学校の講師を辞めた後にオープンさせたそうだ。

入り口の壁に「Theater for short films」と書かれているように当時のコンセプトは短編映画専門の映画館である。



どうやら赤と黄色がトリウッドのメインカラーなのだろうか。そのテーマは空間の隅々まで抜かりなく反映され、コカコーラの自動販売機までもがTollywoodの雰囲気作りに貢献している。

ここでお目当ての映画を定めたら後は劇場へ入るのみだ。




バナナのように鮮やかな黄色一色の椅子が全部で47席。その眩しさは、18年間大切に使われ続けていることを物語っている。



肘掛や背面の曲線美と一点にだけ施されボタン締めが椅子にキャラクターとしての使命を与える。親しみやすさ、優しさ、可愛さ、若さ、、、、。どんな言葉も当てはまってしまうから困ったものだ。さらにデザインに限らず、安心して身を任せられる座り心地には文句の付け所がない。読者の方もぜひ映画をこの椅子と戯れながら鑑賞してみてはどうだろう。

しかしその前に、守らなければならないお約束があるいくつかある。



3つの掟。禁煙、火気厳禁、危険物品持込み厳禁。まさかそんな野暮なお客さんがトリウッドへ来るとは思えないが。



数々の映画を上映して来たプロジェクターだ。 この2台のプロジェクターが18年間のトリウッド史を彩ってきた。

まずトリウッド史を語る上で欠かせない人物といえば新海誠監督だ。

新海誠監督が製作したアニメ映画「君の名は。」は言わずと知れた国民的アニメ映画だ。その功績は著しく、日本での興行収入約250億円に加え、中国、アメリカ、フランスと世界中で高評価を獲得している。

「君の名は。」以外にも「言の葉の庭」や「秒速5センチメートル」なども有名で、ご覧になった方は多いだろう。それらのアニメは全て、パソコンから生み出されているそうだ。

「パソコンがなければ映画は作ってない」とおっしゃっていたように、新海誠監督はCGを駆使したアニメーション製作を好む。それに対し宮崎駿監督は手書きアニメーション制作に強いこだわりがある。宮崎駿監督がアナログアニメ時代の名手と言えるならば、新海誠監督はデジタルアニメ時代の立役者といえる。

そんな日本を代表するアニメ映画監督のデビュー作はご存知だろうか。 それは「ほしのこえ」という短編アニメ映画である。この作品はmac一台で作り上げてしまったらしい。そのあらすじはこうだ。

同級生の美加子と昇は、高校生になった。昇は普通の高校へ進学するが、美加子は国連宇宙軍の選抜に選ばれたことによって、2人は不本意にもそれぞれの道を歩み始める。地球と宇宙に引き裂かれた状況で2人を繋ぐ唯一ものと言ったら携帯のメールしかなかった。しかし、メールが届くまでにかかる時間は次第に何年も開いていく…。

「ほしのこえ」が初めて上映された映画館がトリウッドであり、今でも映画館としてはトリウッドでしか上映できないというレア映画だ。この映画は、ボリウッドどころかハリウッド、ディズニー、ピクサーといった名だたる映画業界でも表現できない日本らしさがあり、それがトリウッドで上映されるたことは必然であったと言いたい。

2002年2月2日に初上映され、初日から完売し、その後再上映が決まったそうだ。しかしそれだけでは終わらず、合計5回の追加上映を決行するという偉業を成し遂げた。

新海誠監督以外にも、日本ホラー映画の金字塔とも呼べる「呪怨」を手がけた清水崇監督が、「呪怨」の前に自作の上映で利用していたのもトリウッドだ。

このようにトリウッドには多様性という言葉がお似合いだ。 青春アニメ映画から狂気のホラー映画まで、みずみずしい気持ちになったかと思えば、途端にノイローゼを引き起こす。

新海誠監督も「短編の良さは個人の趣向性が前面に反映されることだ」とおっしゃったように、トリウッドの上映作は若手監督や自主制作の映画が多い為、個人の独創的なアイディアが自由に反映された映画を観ることができる。

そのような映画を選考、上映してきたトリウッドのスタッフが山本氏だ。


インタビュー下北沢トリウッドスタッフ 山本 氏



「基本的には我々が面白いと思ったものをやっています」

トリウッドでの選考基準は単純明快だ。配給会社や若手映画監督から持ち込まれる作品を面白いか面白くないかで判断する。気に入った作品に関してはトリウッド側から声をかけることもあるという。

「でも、ただ面白いだけでもだめなんですよ」

面白いという選考基準をクリアするだけで上映決定とはならない。その映画をどのように宣伝していくかというプランをトリウッドと監督や製作者で作り上げていくことが大事なのだそうだ。 上映する時間帯やイベント企画、フライヤーのデザイン、メディアへの露出などがプランには練り込まれる。 映画自体が商品になるわけではなく、宣伝プランを含めて初めて商品として完成するということだ。このトリウッドの妥協しない姿勢には若手監督や観客が信頼を寄せている。

「仕事で映画を作っている人だけでもないから、意識の共有が大事」

シネマコンプレックスのように、映画のプロとプロが仕事をする場合は仕事がスムーズだろう。しかしトリウッドはプロとアマチュアが仕事をする場合がある。プランを計画するにはお互いの意識が違わないようにコミュニケーションをとることが大事だという。

「映画を取り巻くものが面白いということもありますよ」

過去に上映した作品で「お江戸のキャンディー2」という映画がある。

「内容としては、見る人が見ればぶっ飛んでると感じるんじゃないかと思います(笑)」

「お江戸のキャンディー2」は男しかいない世界で起きる運命の恋を描いた作品だ。

「いわゆる映画のお客さん、って感じがしないお客さん」

本作で起用されたのはイケメンの2.5次元俳優だ。2.5次元俳優には女性の追っかけがつきものなので、当然トリウッドにも彼女らは参戦してくる。2.5次元俳優見たさでくるお客さんも多かったのだ。グッズもたくさん売れ、イベント当日は大盛況だったという。

「正直わかんないです」

これまで数々の映画を上映し、もうどのくらいかは分からないらしい。では、その中でも印象的だった映画はなんなのだろうか。



「最近のことでいうと、新海監督の特集上映をやらせていただきました」

トリウッドでは毎回、新海誠監督が新作を発表するタイミングで特集上映を企画しているという。今回は2016年8月の「君の名は。」の公開に合わせ、6月から7月にかけて行ったそうだ。

「最終日は、全部の回で満席になりました」

「君の名は。」は初めてメジャーの土俵に上がる作品ということで、トリウッドもファンの方々もいつも以上に気合が入った恒例行事となった。イベント最終日の土日では、一日で今までの作品を全てまとめて見られるというプログラムを組んだそうだ。この無敵のプログラムを組んでしまえば、満席となったのは想像に難しくないだろう。

「予兆を感じていました」

もともと新海監督にはたくさんのファンがいて、特集上映は毎回賑わっていたという。 しかし今回は今までのものとは段違いの活気に包まれ、メジャーでも勝負出来ると強く感じたと山本氏はいう。「とうとうそういう人になったんだな」とも。

「蓋を開けてみたら、とんでもないことになって」

いざ「君の名は。」が公開されると、言うまでもなく隕石が衝突したかのような反響だった。想像してみてほしい。下北沢の一角から世界に「SHINKAI」という名を知らしめたサクセスストーリーは感動的である。その影響力は中国でもアメリカでもフランスでもなく、下北沢で生きる若者の大志に一番響いたことだろう。

「ありがたいことに、一部のファンの方からは“聖地”されているので」

話題のアニメのロケ地となった場所をファンの方々が巡ることを「聖地巡礼」と呼ぶ。もしかすると世界遺産よりもアニメの聖地に訪れた数の方が多いオタクもいるのではないだろうか。とはいえ、さすがに監督のルーツまで巡礼するようなタフなオタクはなかなか存在しない。

それでは「君の名は。」を山本氏はどのようにみたのだろうか。

「「ほしのこえ」の時点から新海監督にしかないものっていうのは確実にあって」

それは映像に対する美学であったり青年ならではの感性を持っていることであったりだろう。また、映画を製作する前はゲーム会社で働いたということも発想の助けとなっているのかもしれない。

「どうやったら自分の作品を作り続けられるのだろうかと行った戦略的なことも含めて考えながら進めてらっしゃる方だと思うので、その辺りが「君の名は。」では結実したっていうのがすごくよかった」

ただ山本氏は、観ている最中に気がかりなことがあったという。

「ドキドキしますよね、またこれ、すれ違って終わるんじゃないだろうなって(笑)」

「ほしのこえ」から「君の名は。」まで14年間。新海監督はその間数々の作品を作っているが、それらに共通するモチーフに「すれ違い」があると山本氏は言う。 代表的なのが「秒速5センチメートル」ではないだろうか。最後のシーンで受けた胸を絞られるような切なさは、癒えるまでに少しばかり時間がかかる。

「やっと会えたんだなと、昔からのファンにとってはそこもたまらないんじゃないかな」

すれ違いによって残るしこりのようなものが、ファンの心を掴んだまま引き離さない。それから焦らしに焦らして14年。それが「君の名は。」で結実した時の感動は計り知れない。また、どちらも時空を超えた繋がりを持っているという共通点もあり、あれだけの評価を受けるのも納得がいく。

華々しいトリウッド史を伺ったところで、上映する作品は今と昔で変わって来ているのだろうか。

「短編専門として始まったっていう名残はあるけど、今は尺にこだわらなくなってきましたね」

入り口の壁に「Theater for short films」と書いてあるように、昔は20~30分、長くても1時間以内の映画を上映していたそうだ。その理由として、若手監督が長編を構成していくのは難しく、コストもかかっていた為、“入門編”として短編を作る人が多かったのもあると山本氏はおっしゃった。しかし短編では表現できない長編の良さというのももちろんあり、現在は幅広く上映しているとのことだ。さらに最近は下北沢にちなんだ作品も上映するようになったそうだ。地域密着型ミニシアターとしても下北沢住民から愛されている。



「作品によってお客さんの層はかなり変わります」

上映する作品がバラエティに富んでいるため、新作を上映するたびに訪れる根強いトリウッドファンもいるらしいが、基本的には見にくるお客さんも多方面に渡る。

「そもそも映画を見るっていうことが変わってきているような所はありますね。もちろん映画好きのものではあるけど、映画にあんまり興味がない人も気軽に行ける場所になって来たかもしれないです」

自由席、二本立て、入れ替えなしという旧来のものが、指定席、入れ替え制に変わり、映画館の価値観も変えたのは確かだろう。また、TOHO CINEMASのようなシネマコンプレックスの登場もあり、より映画館が身近な存在になってきたのかもしれない。

しかしその反面、個人経営の映画館は閉館の一途を辿っているという側面もある。

「シネマライズができたのが大きいんじゃないですかね」

まず、ミニシアターブームが起きたのが1980年代後半。それの火付け役となったのが渋谷にあったシネマライズというミニシアターだ。映画「トレインスポッティング」や「アメリ」の上映で成功を収め、ブームを盛り上げた。それが下火となったのが2000年代。多くのミニシアターが閉館していく中、2016年にシネマライズもまた多くのファンに惜しまれながらにその役目を果たし終えた。

では、ミニシアターブームが去った後もトリウッドが存在感を放っている要因とは一体なんだろうか。

「サイズ感っていうのはありますね、この広さだから表現できているものがあります」



トリウッドの館内は決して大きいとは言えない。大きな映画館に慣れた人からしたら少し物足りなさを感じるかもしれないが、この空間でしかなし得ないエンターテイメントもあるのだそうだ。

例えばトークイベントでは、お客さんの目と鼻の先にゲストがいるという状況になるという。ゲストのファンにとっては歓喜極まりない距離と言える。

「スペクタクルな要素が多い映画だと多分物足りなくなると思うんですけど、このサイズ感だからこそより面白く楽しめる映画もあるだろうし」

映画の楽しみ方も一つとは限らない。もちろんド派手な演出が多いSFやアクション映画は大きな映画館の方が楽しみも倍増するが、エモーショナルな映画やピースフルな映画に至ってはトリウッドに軍杯が上がる。

トリウッドの価値をお客さんがどのように思っているかも山本氏に伺ってみた。

「黄色い椅子はお客さんに喜ばれます。」

やはり黄色い椅子は定評があるようだ。インスタグラムやtwitterに上げる女の子もいるそうで、トリウッドのシンボル的存在と言える。



「アットホームとかってよく言われたりしますね」

山本寛監督というアニメーション監督の作品を上映した時は、「応援上映」を行い、お客さんが館内でサイリウムを振るということもあったという。館内の一体感やサイズ感といったプライベートな雰囲気がお客さんにアットホームだったと満足してもらえる要因になっているとのことだ。

「音も評判いいですね」

スピーカーから出る音は決して大きすぎるわけではなくクリアに聞こえてくる。山本氏も音がダイレクトに響いてくるとおっしゃった。

「おそらく「君の名は。」を上映した映画館の中で最小の部類に入る劇場だと思うし、下手したら試写室より小さいかもしれないけど、その代わりめちゃくちゃ綺麗だったという感想をいただきました。」

これは「君の名は。」やそのほかの作品の映画監督や制作側からの評価である。遠くから大きいスクリーンに映写するよりも、近くからこのスクリーンサイズに映写することで解像度が凝縮されるからだという。「君の名は。」の見どころの一つに映像美は欠かせない。その製作者側からお墨付きを頂いたのだ。

トリウッドの良さは、黄色い椅子や映像美、音響にある。極み付けは、ライブ並みの盛り上がりを見せるイベントの数々がトリウッドを映画館としての域を超えた空間に様変わりさせるという点だ。

先ほどの衰退したミニシアターブームに加え、近年追い討ちをかけるようにamazonやnetflixの定額見放題サービスが市場を支配して来ていることを山本氏はどのように考えているのだろうか。

「映画館は廃れないと思いますけどね」

結論から述べると山本氏はこの流れに賛成だそうだ。映画館側からしたら反対という人もいるが、映画の楽しみ方が多いに越したことはないという。例として挙げてくれたのが音楽市場だ。我々がitunesやspotifyで音楽を楽しんでいる一方、ライブへ行く人も一定数はいるように、定額サービスが現れたからといって映画館が寂れることはないという見方を示してくれた。

映画を楽しむ方法が増えたように、映画監督もまた表現の幅が増えたそうだ。

「当時は他に上映できる場所があんまりなかったんですよ、youtubeもない時代で」

トリウッドにはスニークプレビューというサービスがある。監督が持ち込んだ作品をかなり良心的な価格で上映してくれるといったものだ。上映された映画の評判がよく、200人以上動員するとトリウッドでのロードショーの権利が得られるという。若手監督のステップアップの場としてもよく利用され、山本氏もよく利用したそうだ。その気合いの入り方が凄まじく、2ヶ月ごとに新作を作るというペースで、仲間達と自主制作した作品を上映していたとか。その後プロデューサープロデュースプロジェクトというトリウッドのオリジナル企画の第一弾でプロデューサーを務め、それ以降も数々のトリウッドオリジナル企画のプロデューサーを担当してきた。 山本氏曰く、当時はトリウッドのスニークプレビューや他の上映スペースなどでしか上映する機会がなかったが、今は違うという。

「今はその道筋がまたさらに多様化してるってことはあるかもしれないですね。昔はそれが少なかったから狭き門になってる所もあった。また、外から見えづらいということも」

今はネットで公開することもできたり、映画を教える学校も増えてきたりしているので映画監督にとっては比較的良い時代になってきただろう。それが映画を見ることの価値観の変化につながり、より多くの人々の目に触れる機会に恵まれるようになった。

そのような背景がある中、妥協を許さないトリウッドには次世代を発掘したいといった思いはあるのだろうか。

「“次世代を発掘してやる”なんて偉そうじゃないですか」

次世代発掘といった大それた考え方はしないにしろ、若手監督には一目置いているという。

「僕よりも年が上の人たちは、知識が蓄積されているんだろうけど、それは僕もこれから通る道筋であって」

「僕よりも年が下の人たちって全く思いもよらないようなものの見方をしてたりするじゃないですか。そういう人たちと何かやってた方が面白いんじゃないかなと思います」

山本氏より年配の方は経験値が豊富で学ぶことも多い。しかし、自分もいずれはそうなって行くはずだが、例え不老不死の秘薬を手に入れたとしても、若返ることは決してないということだ。 それに比べて若者はそれほど知識もなければ固定概念にもそれほど縛られていない。それ故の創造は確かに新鮮だ。山本氏も年配の方と仕事をするのも面白いけど、若い人と仕事をする方が刺激的だとおっしゃった。

では、具体的に現代における二世代の決定的相違とはなんだろうか。

「デジタルネイティブとそうじゃない人たちっていうのは何かしら決定的な違いがあるんだろうなとは思います。」

今の10代は物心がつく前から家にパソコンがあり、インターネットができる環境にいた人たちであるのに対し、山本氏を含む大人達はそれが20代からだったという。

10代にとってはパソコンやスマートフォンは親しみ深いものの一つとして存在していたはずだ。同じ時代に生きながら、テクノロジーに隔てられた二世代の価値観は極端に異なり、上の世代にとっては下の世代の価値観が新鮮であると山本氏はおっしゃった。

また、今の若者は良くも悪くも、ゆとり世代やさとり世代と呼ばれているが、デジタルネイティブ世代と総称することで、少しは若者への理解が深まるのではないだろうか。

「でも若い人たちがみんな面白いわけじゃないですけどね。若いのになんでそんな面白くないこと考えてるんだろうなってこともたくさんあるんで(笑)」

ただ、山本氏はデジタルネイティブ世代の全てを肯定しているわけでもない。あくまでも、衝撃的な発想をもつ若者から学ぶことが好きであるとのことだ。

「どの世代にもあると思うんですよ。hiphopで言えば2pacが至高の存在とか、女と金のことを歌ってるのがいいって人もいれば、kendrick lamar や chance the rapper が政治的なこと言うのがいいって人もいるだろうし、でも、そこにこだわると新しくて面白いものが出てきているはずなのに、そこに気づかないのは勿体無いですよ」

「フラットに捉えたいですね」

年配の方の知見を取り入れることも若者の新奇なアイデアを吸収することも大切だという。すなわち、偏見を持たず、二世代間のバランス感覚を捉えていきたいということだ。

世代間の食い違いをhiphopで例えたように、山本氏は大の音楽好きだ。映画に携わる仕事でありながら彼のtwitterは映画のツイートより、音楽のツイートの方がはるかに多い。こんなエピソードがある。

「若くて暇があった時代は、実在しない架空のアーティストのアルバムをブログでレビューしてましたね」

まず適当に考えたアーティスト名をネットで検索し、存在しなければ彼らが作りそうなアルバム名を考案する。あとは想像力を働かせ一つのアルバムを自作自評するといったものだ。その発想力の豊かさは2ちゃんねらーをも凌ぐだろう。そして何かプロデューサーらしさをこの暇つぶしエピソードから感じる。

我々はその中でも一押しのアーティストを尋ねてみた。しかし返答はあっけないことに、「一人も覚えてないですね。全く思い入れがないんで」と。

山本氏のtwitterを拝見すると、古今東西の音楽に通じていることが良くわかる。

「懐古する楽しみもありますけどね。心地よさみたいなものがあるじゃないですか」

刷新することを好む山本氏でも青春時代の音楽はやはり情が沸くそうだ。ここではお腹いっぱいになる程聞いた曲を紹介しよう。

「そのかっこよさが刷り込まれちゃったんですよね」

10代後半では、ナンバーガールという、今はザゼンボーイズで活動する向井秀徳さんがボーカルとギターを務めたバンドがある。ナンバーガールの音楽がかっこよすぎて、どうしても最近のバンドは馴染まないんだとか。

「自己肯定できる何かを感じられたような」

ある日ラジオでオアシスのwhateverが流れていて、一気に好きになったという。メロディが非常に素晴らしかったのと、彼らの自尊心に高校時代の山本氏は勇気付けられたようだ。しかしオアシスの場合は個々の自尊心が強すぎたが故に解散してしまったのだが。

「スーパーカー」

このバンドは山本氏とほぼ同い年で、出身地も山本氏が北海道、彼らが青森だという。デビュー当時のメンバーの平均年齢が19歳だったことが山本氏に大きな衝撃を与えたそうだ。

「今年はkalvin harrisの”slide”を一番聞いてましたね。夏はこれしか聞きたくないみたいな」

青春時代の音楽はロックが多いが、今はsoul、R&B、ジャズ、hiphopなどと音楽の趣味は広範囲に及ぶ。

「自分のものすごく好きなものが、自分の知らないところにあるのが嫌で。ほんとはドンピシャなのに、知らないで過ごしてることとか。でも世の中そういうことばっかりだから。」

音楽に限らず、漫画、ドラマ、バラエティ、食べ物など、自分の好きなものをとことん突き詰めたいという。それは実は単純なことでありながら、最高の娯楽でもある。しかし、人によってはとても難しいことでもあると私は考える。

少々話題が音楽に偏りすぎてしまったようで、映画プロデューサーが選ぶオススメの映画を聞きそびれてしまうところだった。

「EUREKA(ユリイカ)は、漠然と思っていたことが正解かどうかは差し置いて、映画の中で一つの形で示されたので、やられたって思いましたね」

まずこの映画は217分ととても長い。九州で起きたバスジャック事件を機に、心に深い傷を負った人々が人生の再生をかけた旅に出るといった物語だ。 人と人が繋がる時に何が必要なのかという答えのないような疑問を映し出した素晴らしい作品だったという。「EUREKA」とは古代ギリシャ語で発見という意味で、見た者に何かしらの発見を与えることだろう。

また「ニワトリはハダシだ」という映画も気に入りの一つだという。

「キャストの生き生きとした力をすごく感じました。ど頭のシーンで船の上からうんこしちゃうシーンもすごく印象に残ってます。そこから入るんだって。」

主人公の中学三年生の勇は重度の知的障害者である反面、驚異的な記憶力をもつ。彼はある犯罪事件に巻き込まれるが、持ち前の記憶力で困難を乗り切るというストーリーだ。

最後に我々は山本氏にトリウッドがサブカルと呼ばれることについてどのような考えを持っているのか尋ねてみた。

「サブカルチャーを本来の意味で使うと、映画も音楽も全部サブカルチャーで、メインカルチャーと呼ばれるものは高貴なものを指していたわけで。それがいつのまにか一つのジャンルとして扱われるようになったじゃないですか」

サブカルチャーの定義が昔と今で変化し、その辺りが曖昧であることに間違いはない。

「この映画館自体、ど真ん中ではないってことは自覚してますし、サブカル的に見られることはわかってますけど、「サブカルです、どうぞ」ってわけでもないですね」

ハリウッドを映画界のメインカルチャーとするならば、トリウッドはサブカルチャーと言えるだろう。また日本の中でも、旧来の意味と現代の意味のどちらにしろ、トリウッドはサブカルチャーの枠に入るかもしれない。しかし山本氏が考えるトリウッドは、カルチャーという枠にとらわれていないようだ。

「誰かにとってはメインとなる映画を上映してるので、そうなってしまえばメインもサブもないわけです。」

時代を象徴するものがメインカルチャーであると考えるなら、映画がメインとなるのは困難だ。しかし映画の好みは十人十色で、その誰か一人の核となりうる映画を上映することがトリウッドのスタイルなのである。ミニシアターブームに左右されず、華々しい活躍を見せているのもそういった主体があったからではないだろうか。



最後に山本氏から何か一言を頂戴し、トリウッドを後にした。

「12月2日からCOCOLORS(コカラス)というアニメーション映画を上映するので、ぜひ劇場へ足を運んでください。」

アニメーション制作 : 神風動画 弐式スタジオ

延々と降り続く灰が、空と地上を覆ってしまった世界。人体を融解させるというバクテリアを含んだその有害な灰を吸い込まぬよう、人々は巨大なマスクと防護服で全身を覆い、地下深くに作られた街で暮らしていた。しかし、灰はしだいにその街をも侵食していき、やがて人々は絶望に飲まれていく。 そんな世界に暮らす少年、アキとフユ。2人は地下に暮らしながらも外の世界を空想し、未だ見たことのない空に憧れを抱いていた。やがて外の現実を知る時、成長した少年達は何を思うのか─。

*トリウッドホームページより引用 URL:http://tollywood.jp/next.html#next2


http://tollywood.jp/

月:HP

火:定休日

水:HP

木:HP

金:HP

土:HP

日:HP

東京都世田谷区代沢5-32-5-2F